坂を上りながら味わう街ではあるが、坂道を弁天様まで登りきって、そこから右に折れる小路に入ることを絶対お勧めする。
石畳のしっとりとした別世界が待っている。
道なりに右に折れ、左に折れ、二、三段の階段を下りたりしながら、割烹旅館のたたずまいに感じ入っていると、まるで自分が作家か何かになって忍び恋をやっているかのような錯覚にとらわれる。(きっと願望がそうさせている)
小路を抜けると目の前にひっそりとした店が現れる。
串焼きの店である。
このまま引き寄せられるように入っていくのである。
適度に照明が落とされ落ち着いた雰囲気の店。
一杯やりながら先ほどの錯覚の余韻が消えない。
消えないどころか益々その気になっている。串焼きが出された。
実にうまい。少し贅沢だが、酒は既に生ビールから山崎のハイボールに変わっている。
作務衣を着た女店員の落ち着いた仕事振りを眺めながら、至福の時である。
少し酩酊したところで切り上げる。
また例の小路を戻って、神楽坂を下る。
もうずいぶん昔のことになるが、佳作座という名の名画座があった。
通った。映画の余韻を抱えながら、隣の酒屋の立ち飲みコーナーで缶詰をつまみに一杯やれた時代だった。
この街に今日のような形で戻ってくるなんて想像もしていなかった。あれから何年?
0 件のコメント:
コメントを投稿